気ままに気楽に

今日も息をしています

質屋

イメージ 1

イメージ 2


イメージ 3


1965年に公開されたシドニー・ルメットの傑作である。

まずこの映画の記事を書くに思い当たったのが、対人の商売に置いて古物商や中古品や新古品を扱う商売ってのが買取業務が一番大事で、その買取に少し駆け引きを要するので単に商品の目利きが出来る知識だけでなく人間力や知恵も要求される職業でもあり、質屋なんかもその代表的なもののひとつであると改めて感じた。

お話の方は主人公のソル・ナーザマン(ロッド・スタイガー)はNYの(おそらく?)ハーレム街で質屋を営んでいる。

この男はポーランド系の移民で20数年前に自国にて生き地獄を味わった男である。

いわゆるナチの侵攻により、母国は占領され妻子はナチの手によって殺められ、自身はガス室送りの寸前までで生き延び、想像を絶する地獄絵図の様な中を生き延びた男である。

今は妻の妹と養父と暮らし、商売も順調で何不自由なく過ごしているように傍目には見える。

だがこの男の深層心理にはそのいまわしい記憶が時折よみがえったりしてその悪夢にさいなまれる事がしばしあるのではある。

そんなすさんだ心情の彼に唯一明るい精気を吹き込んでくれるのがプエルトリカンの助手のジーザス(ハイメ・サンチェス)である。

この陽気な助手はソルを実の父親のように慕い尊敬し、人生の師匠とまで持ち上げそしてゆくゆくは自分も質屋を経営したいと考えているが対人商売をするには少しおしゃべりが過ぎる嫌いの青年である。

ある日、ソルの元に社会福祉事業家(いかにも怪しい)のマリリンという女性が現れる。

ソルはいぶかりながらも彼女に小額の援助金を渡し、二度と店に現れるなと釘をさす。

俺も古書店に勤めていたりレンビデ屋の店長をしていたのでよく分かるのだが、怪しいセールスまがいの詐欺師はもう対面商売に置いては日常茶飯のようにあったのでこの辺のあしらい方の描写は非常にリアルではあった。

一方、ジーザスはなんとか師匠であるソルから商売の基本を学びたいので彼から純金の見分け方や貯蓄学を学ぼうと一生懸命である。

ただこの店も表向きは質屋で生計を立てているのだが、実情は黒人のロドリゲスという街の顔役でかつ娼婦宿を経営してる男がスポンサーで付いていて、しっかりみかじめ料も払いお互い持ちつ持たれつの関係でいる様である。

ある日、ジーザスはソルから金に勝るものはこの地上にない、金さえあればほぼすべてのモノが手に入るという説教を聞き、成程とは思いつつ落胆する。

ソルはガス室送りになりそうなところをすんでの処で救ったのが大学教授を母国でしていたこともあり金の力で生き延びたのだからそういう発想になっても仕方がないし俺自身、金のないのは首がないのと同じという考えもあるので共感は出来るが、ソレ以外は一切の興味を持たない処にはつらいけれどこの男に同情の念は隠せない。

そんな中怪しい事業家マリリンを呼びつけてデートをするが結局、マリリンの社会経験のレベルではこの元大学教授の氷の様な人間性も温かくはならない。

一方、ジーザスは師匠の拝金主義な考えに嫌気をさし、こんな男の処で下働きをしてもどうにもならないと金庫の中に多額の現金があるのも判明したため、ワル仲間3人と店襲撃計画を敢行しようとする。

ソレを止めようとジーザスの恋人の黒人娼婦が必死にソルの店でガラス玉の指輪を高額で買い取りさせようと涙ぐましいヌード姿を披露した時に、ソルの頭の中ではフラッシュバックが起きて殺された妻をレイプしようとするナチの兵隊の姿の光景がダブリ、ガラス玉の指輪にもかかわらず高額の買い取りをしてしまう。

もういささかロドリゲスとの取引も解約したいソルはその旨を訴えるが、そこはそれハーレムの顔役なので拒絶された上にピーナッツ野郎とののしられ、ブッ飛ばされる。

そうした中、一大決心したジーザスとワル仲間一味が店の強盗を敢行するのだが果たして、、、、、、、

この映画は1960年代の映画にしてはおそらく初めて正面を切ってユダヤ人の苦悩を取り扱ったと思うし、又NYの街のリアルな風景を切り取ったのもおそらくほぼ初であるとは個人的には思います。

そしてこの2年後、名作「夜の大捜査線」で人種偏見の激しい刑事役でアカデミー主演男優賞を受賞したロッド・スタイガーが人種偏見の全くないユダヤ系白人を演じ、「12人の怒れる男」で社会派の名匠と言われたシドニー・ルメットの人間の業の深さ、深遠なるもの、そして人として生きるとはなんぞや?という命題を正面切って問いかけているニューシネマの傑作だと思います。

若ーい頃に観てふーん成程って感想しかなかったのですが年齢を経てから観ますと色んな深い意味が隠されている傑作映画であると、先日WOWOWにて久々に視聴しまして認識しました。

この映画でロッド・スタイガーは見事、ベルリン映画祭男優賞を受賞しています。